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木の音 人の技 トップタイトル

USAルシアー作 0タイプ(?)


アコギ ニューヨーカー ハカランダギターは楽器店で買ったり、中古楽器店で買ったり、WEBのストアやオークションで買ったりしますが、要は「これは!」って思うギターに会うと、少々高くても買ってしまいます(で、オカーチャンに謝ります)。手も足も出ない価格でない限り(とんでもない価格のギターたちがいますが、まあ、コレクターズ・アイテムでしょうねえ)。このギターはオークションで手に入れました。一目惚れではあるのですが、正直言って、ニューヨーカータイプにそれほど興味があったわけでもなく、ハカランダ素材にそれほど惹かれた訳でもありません。しかし、画像に映っているこのギターを一目見た時、やたらと気になって、見るたびに「欲しい…」という欲求が高まりました。どこに惚れてしまったのかと言えば、もう直観としか言いようがないのです。この出品者の方がギターの内部まで画像で公開しており、その鮮明な画像を見て、このギターの「設計思想」のようなものと「設計者のこだわり(?)」のようなものを強く感じたのです。一言でいえば「楽器は音。That's all.」。

このギターは前オーナーがアメリカから個人売買で入手したパーラータイプのギターで、アメリカの売り主の話では、このギターの製作者(ルシアー)は1900年代初頭のマーチンをコピーしようとしたそうですが、ヘッドがスロテッドではありませんし、ネックがなんと「ボルトオン」ですから、ちょっとそのあたりのイメージとは違うような…。ギターのネックを「ボルトオン」という構造は昔からもあったようですけど、まあ、合理的というか大雑把というか。今ではテイラーが採用しています。要は「アメリカのルシアーメイドのギター」です。というと何やら高級で仕上げの良いギターのようにイメージしてしまいますが、前オーナー曰く、「このギターに店頭で売られているような仕上げのクオリティを求める方は入札しないでください」とか。相当に「雑な作り」であることを強調されていました。「それがアメリカ」なんていうような大らかさなどではなく、本当に「テキトー」に近い「雑」さであると…。まあ、12Fのジョイントがボディと合っていませんし…。

アコギ 内部 ライニング しかし、その音に関しては「気持ちが良い」とのこと。前オーナーは2年位このギターを使用されたようですが、その間はメインのギターであり、フィンガーピッキングが演奏の中心になってしまったとか。ということは、音に支障があるような「雑」さではないようです。先に述べた、ギター内部の構造を見ると、まずそのライニング(ギターのトップ&サイド&バックを固定する角の補強材)が、通常見るものと作りが違うのです。いくつものスリットが入った蛇腹様のものではなく、トップの方はバイオリンのように木を熱で曲げて取り付けたようなライニング(裏にスリットが入っている場合はありますが、多分、入っていない)で、バック材との角のライニングは、上部に少しスリットが入っていますが、これもバイオリン職人のように「木を熱で曲げる技術」が無いと作れないでしょう。更に驚いたのは、トップのブレーシングの頑丈さに比べて、バックの、特にエンド側のブレーシングが拍子抜けるくらい薄い(割りばしのような感じ)こと。全く、国産のギターとは違います。まあ、似たような構造のギターを作る職人は日本にもいます(バックのエンドにブレーシング材を入れない)が、かなり珍しいでしょう。

つまり、通常のギターのイメージでは、弦の振動で表板を振動させてそれを「箱」の中で増幅させて、サウンドホールから音として出していく、という感じですが、このギターは、トップで受け止めた振動を、そのままバックに当てて、箱全体を鳴らす、といった感じです。確かに、海外のギターにはそんな傾向がありますけど、ここまでハッキリとその構造を作っているのはあまり見たことがありません。「どんな、音がするのか…」、もう興味マンチクリンです。ヘッドになんのロゴも入っていないのもいいですね。私、こういった、良い意味での「素性がハッキリとしない」ギターが好きなのです。色々想像できるから。サイド板の内側が妙に「汚れた」ように見えたので、最初は「何か塗装でも…」と思っていたのですが、そういえば初期のギター製作で、「サイド板の内側に膠(ニカワ:動物の皮や骨などのゼラチン質から作る接着剤)を塗って(割れ止めの)補強をする」というのを何かで読んだことを思い出しました。その後は布や板を張り付けて割れ止めをしていますが(効果のほどは?)。膠を塗るのであれば、補強は万全でしょう。

ニューヨーカー ヘッド とはいえ、いくら作りが「雑」であっても、サイド&バックがハカランダの単板ですから、決して安い価格にはなりません。マーチンてロゴでも付いていたらとても手の出ない価格になるでしょう。出品者の方の住所が比較的近かったし「試奏OK」だったので、何とか時間を作って現物を見てみたかったのですが、都合悪し…。お一人、試奏に行かれた方がいらしたようですが、その方はオールドマーチンの所有者で、そのギターの音を絶賛されていたとか。「こりゃ、ヤバい…。けっこうな額になるかも…」。しかし、欲しいのです。そのギターに惚れてしまったのです。もう理屈ではありません。結局、オークションではその「試奏に行かれたオールドマーチン・オーナーの方との一騎打ちとなってしまいました(後で出品者の方に聞いたことです)。他にも興味がおありの入札者の方はけっこういらっしゃいましたが、最後には二人だけ。典型的に値が上がるパターンです。途中、何度か諦めかけましたが、結局は私が落札しました。で、オカーチャンには深々と頭を下げて「ゴメン」。また、ギターを買ってしまいました(しかも、安くない…)。

なかなかに好感の持てる出品者の方で、オークションのメールで何度かやり取りしましたが、試奏されたオールドマーチンのオーナーの方に「これを手放したら、絶対に後悔するよ」と言われたとか…。嫌でも高まるこのギターへの期待。

軽量ケース で、ついに届きました。その時の感想ですが、荷のあまりの軽さに「何かの手違いでギターを入れ忘れたのか…」と思ってしまったほどです。ハードケースが軽量タイプだったのと、やはりギター本体がカラカラッに乾いていて、ボディよりもネックの方が重いくらいの、「謎のW0」と同じ状態でした。よく「軽いギターは音が良い」と言いますが、それは材がよく乾いているという意味でしょう。早速、ドキドキしながら弾いてみます。ハイ、昇天ものの音です。もう「激鳴り」とか「鈴鳴り」とかなんて安っぽい言葉ではなく、この小振りなギターの、一体どこからこんな音が出てくるのかと不思議になるくらいの妙なる音です。私、生ギターでこんな音、聞いたことありません。そこから、数時間は弾いていたでしょうか。まあ、感想と言えるほどの言葉ではありませんが、「トンデモナイ」音色です。ふと「前のオーナーは、何故これを手放したのか…」という思いが頭を過るほどです。

ダイヤモンドボリュート ギターの本価値は「音」ですが、改めて前オーナーが言っていた「作りの雑」さについて見てみました。私の結論です。これは「このような作りの時代のギター」という事です。各所にある木の接合部のラッカーが沈み込んでいるのは「木の痩せ」のためです。内部のブレーシングが「雑」に見えるのは昔の加工法(木の曲げ方、接着の仕方等)によるもので、(多分)補修でタイトボンドを使っている個所もありましたが、基本は「はみ出るくらい」の「膠(ニカワ)」で接着されています。最近、マーチンでさえ、音作りのためにタイトボンドから膠へ接着剤を変えているとか。何より驚いたのは、そのネックとヘッドの構造。マーチンのヘッドの裏にあるダイヤモンドボリュートは有名ですが、これはネックとヘッドを別々に接合していた時の名残です。で、このギターは名残ではなく、本当にネックとヘッドがダイヤモンドボリュートの部分で接合されています。しかも、膠で。更に、トップの材がシトカスプルースとはちょっと違う…。最初はジャーマンスプルースかと思っていましたが、多分高い確率で、レッドスプルースともいわれるアディロンダックスプルースだと思います。撮影が下手なので画像では白っぽく見えますが、実物は赤味のある材です(イングルマンスプルースにも赤味の強い個体はあるそうですけど…)。

ニューヨーカー バインディング これはもしかしたら、かなり古い時期に作られたものでは…。よく見ると、バインディングやナットなどが不釣り合いに白く、交換・修理されているようです。とにかく、「おそらく」も含みますが、トップがアディロンダックの単板でネックが分厚いマホガニー、サイド&バックがハカランダの単板、指板もハカランダでブリッジはサップ入りのハカランダ…。アディロンダックのトップは3mm程度で、分厚い。これは、材を贅沢に使える時代にしか作り得ないギターです。しかも、塗装ですが、ラッカーが非常に薄く、ニトロセルロースよりも、カイガラムシ(虫です)から抽出精製した「シェラック:セラックともいう(Shellac)」、つまりそれを溶媒に溶かしたニスではないかと思えてしまいます。私が知っているギターのラッカーとは明らかに質感が違います。

ブリッジ サップ入り マーチンには「プリウォー」と呼ばれるものがありますが、要は第二次大戦以前に作られたギターです。状態の良いものだとコレクター間でン千万円で取引されるとか…。そうなるともう、ギターではなく、資産ですね。ただ、この当時には、今ではレッドブックに名を連ねている材が惜しげもなく使われていました。その中で、二度と現れないような名機が作られていたのでしょう。で、この私の手の中にあるギターですけど、調べれば調べるほど、そんな時代の「ルシアー」に作られたものではないかと思えてしまうのです。どうにも決定的なのはその指板に打ち付けられたフレットなのですが、今の切り口がきれいなT字型のものではなく、昔の「針金加工」のようなフレットで、これは溝の切方が深くなり、横から見ると、溝の切れ込みがかなり余分なくらいに深く見えます。12F以下のフレットは浮いてしまって、深い下の溝がスカスカになっています。今のフレットとは明らかに違います。

フレット 他にも色々あるのですが、キリがないのでこれくらいにしますが、もうこれは私の宝物で、メインギターというより、毎日一度は弾かないと(この音を聞かないと)気が済まなくなっています。自分の調べたことや推論がただの希望的憶測であるかもしれません。しかし「音」は嘘をつきません。何とも、このようなギターを(下手ッピーながらも)、ギター好きの私に与えてくれた前オーナーの方を含め、ルシアーの方からここまで連なってきた様々な方に感謝したい気持ちです。アメリカからよくもよくも、遠路はるばる私の所にやってきてくれました。ギターに対してそんな気持ちになるなんて、変?

【追記】
マーチン「CTM(カスタムモデル) 5-18」 面白いギターをWEBで見かけました。マーチンの「CTM(カスタムモデル) 5-18」というモデルで、かなりコンパクトなスタイルです。0モデルだろうと思って調べてみたら、「Size 5」であるとか…。このモデルは生産数が極めて少ないようですで、マーチンのモデルの中では最小サイズ。確かにかなりコンパクトです。胴で一番広いところが「11.25インチ(286mm)」。0モデルで「13.5インチ(343mm)ですから50mm以上もタイトなボディーとなります。このモデルは1900年以前のモデルで、現在、その復刻版が販売されています。けっこう、お高いですね。まあ、かなり人気のあるモデルであるそうですから(カスタムオーダーされた石橋楽器さん、宣伝しますから画像を貸してください)。

で、それを見ていた時、私の0モデルとのある共通点に気が付いたのですが、フレットが全部で18フレット(12フレットジョイント)。0モデルは20フレットまであります。で、私が持っているものは(マーチンではなくUSAのルシアー作)単純に0モデル(幅が32.5mm)を模したものだろうと思っていたのですが、どうもシルエット(見た目)が「Size 5」に近い…。そうなんです。サウンドホールが「フォワード」気味で、ブリッジが0モデルより後方にあって、そこが「Size 5」に近いのです。スケールはショートではありませんが、画像だけを見ると「Size 5」のように見えます。

0モデル風ギター 何となく、それまでに持っていた疑問が溶けたような気がしました。それは、この0モデル(風)の音が、私の持っている他のハカランダ(or ココボロ or インディアンローズウッド)単板のドレッドノート、トリプル0モデルより音量が上なのです。しかも、「少し」ではなく、かなり…。ボディの小さい方が音が大きいのは「材」の質によるものかと思っていましたが、こうしてみると、胴が鳴るように「フォワードシフテッドXブレーシング(Xブレースがネック寄り)」となっており、その力木(ちからぎ)ですが、「材」のブリッジ周り強度と振動を両立させるために、トップがヘビーで、バックがライトに作られているのでしょう。だから、あのボディサイズから、あれほどの音量を奏でるわけです、と、一人、得心が行きました。「フォワードシフテッドXブレーシング」は1940年くらいには姿を消しているようです。やはり、Xブレーシングをネック側に寄せることによる強度的な問題が大きかったのでしょう。しかしこの0モデルのギターは多少はブリッジ後方が膨らんでいるものの、それほどの変形はありません。コンパクトさ故か…。

スキャロップドブレーシングも1940年代には姿を消しているようですが、この時代(プリウォー:戦前)までのマーチンはどれほどの音を奏でていたのでしょうか。手前味噌ですが、自分が手にしているこの0モデルにその片鱗を見るような気がします。市場の拡大とともに生産効率の中で消えていった「良きもの」は創意工夫の余地まで奪われることが多いものです。これだけの繊細さを持ったまま進化していたら、ギターからどれほどの音が響いてきたのでしょうか。素性は定かではありませんが、私の0モデル(風)ギターは、一人のルシアーの設計思想から生まれた音を奏でています。おそらく、今の「Size 5」ではもう再現できない音ではないかと、思えてしまいます。果たして、ギターのサウンドは進化しているのかどうか…。復刻版「CTM 5-18」ユーザーの方、戯言ご容赦。

<石橋楽器のホームページ>
https://www.ishibashi.co.jp/

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